プロローグ


これは、ある一冊の古びた本に描かれた物語。

 

 

 涙を流せない男と、片目を失ってしまった少女の、哀しい物語。

 

 

 

 その物語は、誰が書いたのかも、本当にあった出来事なのか、誰にも分からない。

 

 だがそれは時に世界の壁をも越えて、様々な地に流れ着き、様々な人に触れられている。

 

 

 

 悲劇を描いた物語は、人々の心に訴え続けていた。

 

 「この出来事を知っていてほしい。忘れないでほしい」と、

 

 ひたすらに訴えかけていた。

 

 

 

 その訴えに人は多かれ少なかれ心を動かされ、他の誰かに物語を伝えていく。

 

 

 

 そうした連鎖のなかで、哀しい物語は、今もどこかでひっそりと語られ続けている。